西日本詩時評 [お知らせ]
『源氏物語の女たち』西日本新聞2017年10月18日
西日本詩時評 岡田哲也
坂田トヨ子さん(福岡市)の『源氏物語の女たち』(コールサック社)は、「私」という姿見に映し出された『源氏物語』の十六名の女たちへの頌歌(ほめうた)です。「若い魂は私一人のもとに留まらない/私が求めれば求めるほどあの人は遠くなってしまう(略)私の中に鬼が生まれたのはこの時だったか」(作品六条の御息所(みやすんどころ)) 『源氏物語』を読んでない人でも、ははあ、これは,男に翻弄される女の話だな、とわかります。そして、六条の御息所に憑依した 「私」は、最期に歌うのです。「私の一生は辛いことばかりだった/もっと幸せな人生もあったろうに/別の生き方があったのだろうか/あの人を愛したことが苦しみの始まりだった(略)満たされないまま燃え尽きる私の命/出家したとて鬼は消えてはくれない/けれど命が尽きればそれも消えてしまうのだろう」(同前)いささか演歌っぽい紋切り型だなあ、というよりもこの後千年の女たちの愛別離苦の原型が『源氏物語』にはあるのです。映し出される女たちの心模様が、秋空のようにカラリとしているのは、原作の奥深さゆえでしょうか。それとも作者の性(さが)ゆえでしょうか。
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