北九州市 生活保護 [社会福祉]
10月29日から厚生労働省は、北九州市の生活保護行政の監査を開始し、北九州市が設けた「検証委員会」の中間報告も発表されるなど、一連の出来事へのひとつの節目を迎えています。
元々、市が「生活保護」の申請を受け付けなかったりして、受給制限をしていたのではないということで、検証委員会を設けたものです。
北九州市は10月には、「孤独死と生活保護に関するアンケート調査結果」なるものも発表しました。この調査の目的は、
「市内における『孤独死』事例の検証と生活保護などのセーフティネットに関する検討を行うに当たり、これらの課題に対する市民意識を把握する資料とするために、アンケート調査を実施した」
というマイ説明です。
生活保護申請を受理しなかったり、生活保護者を就労可能として、根拠もなく保護を打ち切り、結果として「孤独死」に追いやったのに、孤独死自体が問題のように見せかけています。
できれば孤独死は避けたいですが、問題の背景が異なるものを一緒にしているとしか見えません。当然、アンケートの自由記述欄に、次のような記載があります。
「『孤独死』とはどのような死をいうのですか? きちんとした定義があいまいですと、行政の対応もあいまいになります。『自殺』も『孤独死』のうちのひとつではないのですか? 『老人ホーム』での死も『孤独死』かも知れない。反対に『一人暮らし』でない人の死は『孤独死』ではないの? たまたま家族が、旅行でいなかったときの死も『孤独死』ですよ」
結果として、生活保護受給可能者が孤独死に至ったのが問題であり、孤独死をここで大きく取り上げると、生活保護行政の本来の問題が見えにくくなるように思えます。そうした問題はありますが、折角の調査を活かす方法もあるかもしれません。
◇ 市民の声を活かすには―区役所への相談は不安が8割も
「地域の民生委員を知っているか」に対して、「知らない」が52.5パーセントと半数を超えています。私も最近まで知りませんでした。しかしながら、ボランティア活動に近く、きわめて多忙な民生委員に依存するのもどうかと思います。制度的な見直しが必要だと思います。
門司区であった保護を打ち切られ、孤独死した事例については、「よく覚えている」の比率が80.8パーセントを占めています。相当強く印象に残っているようです。こうした孤独死を繰り返さないための対策として、
「福祉の各種制度をさらに充実する」
「民生委員や福祉協力員などの制度をPRし活用する」「隣近所や町内会などで『声かけ』や相談をする」が40パーセント台を示しています。地域の相互扶助の仕組みは、不可欠です。
さらに、区役所に相談に行くのに「不安がある」が79.5パーセントを占め(図参照)、内容としては「担当者が話を聞いてくれるか不安」(67.6パーセント)、「申請を受け付けてくれるかどうか心配」(66.1パーセント)の比率が高くなっています。
このように生活保護行政に対する「なんとなく不信」が48パーセントと半数近くを占めており、次の「信用していない」(20.2パーセント)と合わせると、68.2パーセントが不信感を抱いていますが、北九州市が真剣に向き合おうとしているのか疑問があります。
最初に問題なった、門司区で亡くなった後の緊急点検をしたときに、小倉北福祉時事務所の所長から同事務所の 課長に当てた文書に、
「本庁は多くのケースを把握するつもりは無いようなので、特に気になるケースで構いません」
とし、手抜きともとれる処理をしていたなどもあり、行政への不信感が強いようです。市の姿勢に疑問が残ります。
◇ 行政の問題は受給制限ではないのか
今年の小倉北区での自殺では、担当ワーカーが「働かん者は死ねばいいんだ」という暴言を吐いたと報道されています。生活保護さえあれば食べていけたし、自殺する必要もなかった。孤独死というのは結果の問題であり、保護申請の制限や打ち切りが、問題の始まりです。
にも関わらず、アンケートの設問に「地域の民生委員の認知度」「隣近所との会話の頻度」「近所の方の暮らしぶりに差し迫った不安がある場合の行動」など、生活保護の問題とは直接関係がない、誰もが抱えている質問をしています。
それは、必要な調査でも、今回の生活保護の検証の仕事ではないはずです。経済的な要因が、孤独死の誘因になるかもしれません。しかし、孤独死は経済的にも裕福で、社会参加している場合でもありえます。
アンケートの自由記述欄には「不正受給」が、たくさんあるという住民の記載があります。北九州市も不正受給が、増えていると述べています。
地元のテレビニュースで、
「北九州市で、市民が生活保護費を不正に受給した金額は、過去10年で7億円近くに達し、孤独死が相次いだ北九州市の生活保護行政に対する批判もありますが、『市民の側にも反省すべき点がある』と言わざるを得ない気がします」
とキャスターに語らせ、北九州市の担当課長に「不正受給が減っていないことも発信」していく必要があると述べさせています。
この報道は、検証委員会の報告としてなされました。不正受給の問題も検討しなければならないでしょうが、孤独死に追い込んだ市の対応が検討される場の問題が、不正受給問題に力点をずらしているように見えます。
行政も悪いが、市民も悪いという雰囲気になっていく気がします。今回の調査では、市民は、「安易に生活保護を認めない」とする人は9.8パーセントであり、生活保護に対するイメージとしては、「不正受給や暴力団の横行」の比率が52.6パーセントと圧倒的に高くなっています。
不正受給の問題、高齢者全体の孤独死を混ぜこぜにした議論は、問題の解決を遠ざけているように思えます。
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